第3回 「系外惑星の世界の拡大と惑星定義」
2006年夏の国際天文学連合総会の場で最終的に採択された惑星の定義というのは、我が太陽系についてのものでした。当たり前のようですが、これは必ずしも自明ではありませんでした。実は、私もメンバーだった国際天文学連合の惑星定義委員会のもともとの意向としては、太陽系以外の惑星系にも適用させてはどうか、と考えていたのです。
一つの定義なり、法則なりを考えるとき、それがいったいどの程度まで広く応用できるのかを考えておくことは重要です。惑星の定義案を検討しているとき、同じく、この定義をわれわれ太陽系だけに限定するのか、あるいは広くユニバーサルなものとして、別の恒星のまわりに発見されつつある惑星系、すなわち系外惑星にも適用するかについては、ひとしきり議論がありました。われわれ定義委員会では、系外惑星も含めて定義しておきたいという意向となり、国際天文学連合執行部でも賛意が得られ、総会にかけられることになったのです。
ところが、総会の会期中、幅広い天文学者の意見によって、この点は修正せざるを得ませんでした。結果的には、最終的な提案として、今回の惑星の定義は、我々太陽系だけのものとなったのです。

ホットジュピターの想像図(©NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC))
系外惑星の世界は、1995年の最初のペガスス座51番星での発見以来、急速に拡大しつつあります。それまでは系外惑星の発見など、夢の夢と思われていました。他の恒星のまわりの惑星はあまりにも微かです。例えて言えば、東京から見る富士山頂で灯したろうそくの火のまわりを飛び回る蚊のようなものです。恒星である、ろうそくの火は天体望遠鏡で眺めることができますが、さすがに蚊の存在はわかりません。
ところが、ペガスス座51番星では、そのろうそくの火だけをじっと眺めているうちに、惑星の存在がわかったのです。惑星はわずかながら重力があり、惑星が恒星を回るたびに、中心の恒星もわずかに動きます。そのわずかな動き、詳しく言えばわれわれの視線方向における速度の変化を、ドップラー効果として見事にとらえたのです。この手法で、すでに200個以上の系外惑星が発見されています。
さらに、中には恒星の前を横切る例も見つかりました。惑星そのものは直接見えないものの、いってみれば、ろうそくの前を蚊が横切ることで、ろうそくの火がごくわずかに減光する現象です。その減光から、惑星の大きさや軌道の傾きを知ることができます。この手法で、いくつかの系外惑星について、質量や密度が明らかになっています。
ただ、いずれの方法でも、惑星が大きければ、つまり重ければとらえやすいのです。いままで発見されてきた系外惑星のほとんどは木星のような、あるいは木星の何倍もあるような大型の惑星でした。それが太陽系の水星の軌道のずっと内側を周回していたのです。熱い木星型惑星という意味で、これらはホット・ジュピターと呼ばれています。

グリーゼ581のまわりを回る地球型惑星の想像図(©ESO)
ところが、最近は、これらの観測手法の精度もどんどん高くなっています。発見される系外惑星の大きさや質量も小さくなりつつあります。2004年にはヨーロッパ南天天文台が、地球の14倍程度の、さらに翌年にカリフォルニア・カーネギー惑星探査チームが、地球の5.9〜7.5倍程度の系外惑星を発見しました。こうなると、もしかすると地球のように表面が岩石で覆われている地球型惑星ではないか、と期待も膨らみます。ただ、これらの例では、いずれも惑星が恒星に近く、表面が熱いため、地球のように水をたたえていることはない、と思われています。カーネギー惑星探査チームが発見した系外惑星の表面温度は摂氏200度から400度もあるからです。
さて、2007年4月、ついに地球のような惑星の可能性のある系外惑星が発見されました。てんびん座の方向、20.5光年の距離にあるグリーゼ(Gliese)581という恒星のまわりを約13日周期で公転している系外惑星です。その質量は地球の約5倍、大きさは地球半径の1.5倍ほどと推定され、地球型惑星である可能性は濃厚です。さらに、中心の星は質量が太陽の3分の1ほどの、小さくて赤い、ごくありふれたタイプの星で、太陽よりも低温であるため、惑星そのものが恒星に近くても、ちょうどその表面温度が摂氏0度から40度程度になると考えられています。まさに地球のような環境かもしれません。
このように系外惑星の世界は、どんどん広がり続けています。また、同じホット・ジュピターでも、軌道が大きくゆがんでいたりするものも見つかっています。いずれにしろ、われわれの太陽系の惑星を基準にしていると、それに似たものはむしろ少数で、とても考えられないようなものばかりが先行して見つかっていると言っても過言ではありません。
そんな状況ですので、国際天文学連合総会でも、いま太陽系の惑星を基準として惑星の定義を定めても、系外惑星のバラエティにはとても追随できない、という専門家からの意見が強かったわけです。最終的には、われわれもその意見に従って、今回の提議案は、あくまでわれわれ太陽系だけに適用するものと狭めたものとなったわけです。

