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プラネット・プラス

第5回
「太陽の音色と内部構造〜日震学〜」

関井隆氏

関井隆
(国立天文台准教授)

太陽系の中心にあって明るく輝き、地上の生物にとってはまさに母なる太陽。その太陽の中は、一体どうなっているのでしょう。太陽の内部を、直接観測することはできません。太陽はガスの塊ですが、不透明だからです。では不透明な太陽の中は、どうやって調べたらいいでしょう。ヒントはいくつかあります。

われわれが楽器の音を聴く時、知っている楽器ならその楽器の形をみなくても、「これはピアノだ」とか「これはヴァイオリンだ」とか、わかります。それは、楽器がそれぞれ特有の音色をもっているからです。この音色は弦楽器なら弦の材質・張力・長さや共鳴器(弦を除いた部分すべて)の形状で決まります。つまり、われわれは楽器の音を聴くだけで、こういったことについてもある程度わかるわけです。

同じことを太陽で、と言ったら突飛に聞こえるでしょうか。でも、われわれは地球を相手に、同じことをしています。地震学では、地震の予知も重要ですが、地震が起きた時に地震波がどう伝わったかを調べて、地球の中を調べるのも重要な研究分野です。こうやって、われわれは地球の内部構造について知ることができたわけです。

地球には地震がありますが、太陽には? 太陽にも、地震に似た現象があって、「5分振動」の名で呼ばれています。1960年代の初めに、アメリカの研究者がみつけました。彼らは、太陽表面のガスの運動する速度をドップラー効果を利用して測定していたところ、約5分の周期で振動する成分を発見したのです。太陽の地震「日震」が地震と違うのは、日震はいつでも休みなく起きていることです。

後になってこの5分振動は主として、太陽の中を伝わる音波がつくる、「固有振動」であることがわかりました。物体はそれぞれ特有のしかたで振動をし、これを固有振動といいます。特有の、といってもひと通りというわけではなく、振動のパターンと振動数の組み合わせがいろいろなのは、弦の振動に基本振動があり、2倍振動、3倍振動があることを思い起こせば理解できます。こういった違いを「固有振動のモードが違う」と言います。太陽の場合も数千個のモードがあり、これらが組み合わさって太陽に独特の「音色」で鳴っているわけです。ただし、強いのは周期が約5分のモードで、振動数は3ミリヘルツ位です。人間に聴こえるのは20ヘルツくらいまでですから、太陽の音色を聴くことはできません。

さて、この太陽の固有振動の振動数を精密に測ってやると、太陽の中がどうなっているか、その内部構造を推定することができます。これが「日震学」です。楽器の場合は、以前に聴いたことのある音色と比較して、どんな楽器であるかを当てることができますが、太陽のような物体の音色を聴いた人はいませんから、「どういう構造をしていればこういう音色だ」だとか逆に「こういう音色だからこういう構造だ」ということは、理論的に考えてやらなければいけません。ここが日震学研究の中心課題になります。難しいことは難しいのですが、太陽はほぼ球対称ですからまだ簡単な方で、ピアノの複雑な形からピアノの音色を「計算」するのは、実はとても難しいことを付記しておきます。

日震学の研究が進むにつれ、太陽内部について色々なことがわかって来ました。例えば、太陽内部の自転の様子。太陽は全体として約1ヶ月の周期で自転していますが、その自転の速さは実は場所によって違っていることは、黒点の動きをみていればわかります。これを「差動回転」と呼びますが、太陽内部の差動回転の様子は、太陽の活動周期においてとても重要な役割を果たしていると考えられています。こんなことが、太陽の地震「日震」の観測からわかるのです。

最近では、黒点の下がどうなっているのかについても、段々とわかるようになって来ました。日震学の中でも「局所的日震学」と呼ばれ、太陽のごく一部を切り出して調べるのに適した方法によっています。黒点のすぐ下では、外の方から内側に向かう流れがあるようです。また、黒点のすぐ下は表面と同様に、周囲より冷たいのですが、そのさらに下には周囲より熱い領域がありそうです。詳しく調べられた黒点はまだ数も少なく、計算の信頼性もまだ完全とはいえません。今後の研究の進展が待たれます。

太陽外層の差動回転の様子

日震学で明らかになった太陽外層の差動回転の様子。白いところが最も自転が速く、青いところが最も自転が遅い(自転周波数のスケールを参照)。点線の外側が対流層。内側は放射層。

黒点下部の構造

局所的日震学による、黒点下部の構造。色は音速を表わしており、赤いところが周囲より熱く、青いところは周囲より冷たい。矢印は流れを表わしている(SOHO/MDI提供。SOHOはESAおよびNASAによる国際共同プロジェクト)

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